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これに全ては尽きるんじゃないか。ー本田圭佑ー

「先生は自分を嫌っている」は事実なのか

感情と出来事の間にある認知の仕組み

「先生は、私のことが嫌いなんだと思います」

「私だけ注意されます」

「先生は、あの子には優しいのに、私には厳しいです」

「質問しても、面倒そうな顔をされました」

「もう先生には何も言いたくありません」

生徒と面談をしていると、こうした訴えを聞くことがあります。

その時に、周囲の大人がすぐに、

「そんなことはない」

「考えすぎだ」

「被害妄想だ」

と返してしまうことがあります。

しかし、本人が傷ついたことは事実です。

嫌われていると感じた。

不公平に扱われたように思った。

拒絶されたように感じた。

その感情を、最初から否定してはいけません。

一方で、

「自分は嫌われていると感じた」

ということと、

「実際に先生が、その生徒だけを差別的に扱った」

ということは同じではありません。

感情は、その人にとっての現実です。

しかし、感情だけで外部の事実まで確定することはできません。

教育で必要なのは、生徒の感情を否定することでも、本人の解釈をそのまま事実として認定することでもありません。

何が起きたのか。

その時、先生は何と言ったのか。

他の生徒にも同じ対応をしていたのか。

その前後には何があったのか。

継続的な不公平があるのか。

それとも、一つの出来事を特定の意味で受け取ったのか。

感情と出来事を分けながら、一つずつ確認することが必要です。

この問題を理解する上で重要になるのが、

確証バイアス。

拒絶感受性。

敵意帰属バイアス。

ネガティビティ・バイアス。

そして、社会的情報処理モデルです。

人間は、出来事をそのまま受け取っているわけではない

私たちは、目や耳に入った情報を、そのまま録画するように受け取っているわけではありません。

同じ言葉を聞いても、人によって受け止め方が違います。

先生が、

「もう一度、ここをやり直そう」

と言ったとします。

ある生徒は、

「自分が伸びるために教えてくれた」

と受け取るかもしれません。

別の生徒は、

「自分だけできないと思われている」

と感じるかもしれません。

さらに別の生徒は、

「先生は怒っている」

と受け取るかもしれません。

先生が発した言葉は同じです。

しかし、その言葉の意味は、生徒の中にある過去の経験、現在の感情、先生への期待、自分自身への評価によって変わります。

私たちは、出来事を直接理解しているのではありません。

出来事を解釈し、その解釈を通して反応しています。

つまり、実際の流れは、

出来事

受け取った情報

解釈

感情

行動

となります。

「先生に注意された」

という出来事から、

「自分は嫌われている」

という結論へ至るまでには、本人による解釈が入っています。

もちろん、その解釈が正しい場合もあります。

実際に不適切な対応が行われていることもあります。

しかし、別の解釈が可能な場合もあります。

だからこそ、出来事と解釈を分ける必要があります。

確証バイアスとは何か

確証バイアス、confirmation biasとは、自分がすでに持っている信念や予想を支持する情報を探し、受け入れ、記憶しやすい一方で、それに反する情報を軽視したり、別の意味に解釈したりする傾向です。

Raymond Nickersonは1998年、確証バイアスに関する幅広い研究をレビューし、人間の推論、仮説検証、記憶、情報探索など、さまざまな場面でこの傾向が現れることを整理しました。

確証バイアスは、単に「自分に都合のよい証拠だけを見る」という意図的な行為とは限りません。

本人も気づかないまま、自分の予想に合う情報へ注意が向きやすくなることがあります。

例えば、生徒が一度、

「先生は自分を嫌っている」

と考えたとします。

その後、先生が少し厳しい口調で注意した。

すると、

「やっぱり嫌われている」

と受け取ります。

先生が質問への回答を短く切り上げた。

「自分とは話したくないんだ」

と解釈します。

廊下ですれ違った時に、先生が挨拶を返さなかった。

「無視された」

と感じます。

一方で、

先生が学習計画表へ丁寧なコメントを書いた。

進路について時間を取って話した。

間違えた問題を一緒に解いた。

体調を心配して声を掛けた。

こうした出来事は、

「先生として当然のこと」

「仕事だからやっているだけ」

と処理されるかもしれません。

自分の信念に合う出来事は証拠として強く残り、信念に反する出来事は証拠として弱く扱われる。

すると、

「先生は自分を嫌っている」

という認識は、時間とともに強化されていきます。

「嫌われている証拠」を集め始める

確証バイアスが生じている時、生徒は意識せずに、次のような情報の集め方をすることがあります。

先生が自分を注意した回数は数える。

しかし、褒められた回数は数えない。

友達が優しくされた場面は覚えている。

しかし、その友達も別の場面では注意されていたことを見落とす。

先生の険しい表情には気づく。

しかし、その先生が一日中忙しく、他の生徒にも同じ表情だった可能性は考えない。

一度質問への対応が短かったことを覚えている。

しかし、以前30分以上教えてもらった出来事は思い出さない。

ここで危険なのは、本人の中で、

「私は客観的な事実を集めた」

という感覚が生まれることです。

本人は、実際に起きた出来事を挙げています。

先生が注意したことも事実。

返答が短かったことも事実。

挨拶が返ってこなかったことも事実かもしれません。

しかし、その情報が全体の中でどの程度を占めるのか。

反対の情報はなかったのか。

他の解釈は可能なのか。

ここまで確認しなければ、事実の意味は確定できません。

確証バイアスの問題は、事実を完全に捏造することではありません。

一部の事実を選択し、それを既存の信念に沿って解釈することにあります。

拒絶感受性とは何か

「嫌われている」と感じやすい背景には、拒絶感受性、rejection sensitivityが関係する場合があります。

Geraldine DowneyとScott Feldmanは1996年、人が他者からの拒絶を不安を伴って予期し、曖昧な場面でも拒絶を知覚しやすく、さらに拒絶へ強く反応する認知・感情的な傾向を研究しました。

彼らは主に成人の親密な対人関係を対象とし、拒絶感受性の高い人ほど、曖昧な相手の行動を拒絶として受け取りやすく、その反応が関係そのものを不安定にする可能性を示しました。

ここで重要なのは、拒絶感受性が高い人は、単に「考えすぎる人」なのではないということです。

過去に実際の拒絶や否定的な対人経験をしてきた可能性があります。

何度も仲間外れにされた。

努力しても認めてもらえなかった。

親しい人から急に距離を置かれた。

人前で強く叱責された。

信頼していた大人に裏切られた。

こうした経験が積み重なると、

「また拒絶されるかもしれない」

という予測が強くなることがあります。

その予測は、自分を守るために働きます。

拒絶の兆候を早く見つけられれば、傷つく前に逃げたり、反撃したりできるからです。

しかし、拒絶がまだ起きていない曖昧な場面でも、

「きっと嫌われている」

と判断しやすくなれば、必要以上に人間関係から離れたり、相手へ攻撃的に反応したりすることがあります。

拒絶への不安が、拒絶される行動を生むことがある

例えば、先生が忙しそうに、

「ごめん、今は時間がないから後で」

と言ったとします。

拒絶感受性がそれほど高くない生徒なら、

「今は忙しいんだな」

と考えるかもしれません。

しかし、拒絶への不安が強い生徒は、

「私の質問には答えたくないんだ」

「やっぱり嫌われている」

と受け取るかもしれません。

すると、次に先生から声を掛けられても、素っ気ない返事をする。

質問しなくなる。

学習計画表を書かなくなる。

先生を避ける。

友達へ先生の悪口を言う。

場合によっては、先生へ反抗的な態度を取る。

先生側は、その態度を見て、

「支援を拒否しているのかな」

「今は距離を置いた方がよいのかもしれない」

と考え、関わりを減らすかもしれません。

すると生徒は、

「ほら、やっぱり嫌われている」

と感じます。

このように、

拒絶を予測する

曖昧な行動を拒絶として解釈する

防衛的・攻撃的に反応する

相手との関係が悪化する

拒絶されたという認識が強まる

という循環が生じる可能性があります。

最初の時点では、先生が本当に嫌っていたとは限りません。

しかし、拒絶への不安から生じた反応が、結果的に関係を難しくすることがあります。

これは、生徒だけが悪いという意味ではありません。

教師側にも、誤解が生じている可能性を理解し、関係を修復する働き掛けが必要です。

敵意帰属バイアスとは何か

敵意帰属バイアス、hostile attribution biasとは、他者の意図がはっきりしない曖昧な場面で、相手に敵意や悪意があったと解釈しやすい傾向です。

例えば、廊下で誰かと肩がぶつかったとします。

相手が意図的にぶつかったのか。

前を見ていなかっただけなのか。

混雑で避けられなかったのか。

その場面だけでは分からないことがあります。

それにもかかわらず、

「わざとぶつかった」

「自分を馬鹿にした」

と判断する。

これが敵意帰属の一例です。

Nicki CrickとKenneth Dodgeは1994年、子どもの社会的情報処理について、それまでの研究を統合したモデルを示しました。

このモデルでは、人は対人場面で、

情報を受け取る。

その情報を解釈する。

目標を決める。

可能な反応を考える。

反応の結果を予測する。

実際の行動を選ぶ。

という段階を経ると考えます。

彼らのレビューでは、相手の意図を敵意的に解釈する傾向など、特徴的な情報処理の仕方と、子どもの社会的不適応や攻撃行動との関連が示されました。

ただし、敵意帰属バイアスの研究は、特に子どもの攻撃行動や仲間関係を対象として発展してきたものです。

先生と生徒のあらゆるトラブルを、この概念だけで説明できるわけではありません。

それでも、

曖昧な行動に対して、本人がどのような意図を読み取ったのか

を確認する視点は、教育現場でも重要です。

先生の表情を「怒っている」と決めつけるまで

例えば、先生が無表情で学習計画表を見ていたとします。

その時、生徒は次のような処理を行う可能性があります。

先生の表情を見る。

過去に注意された場面を思い出す。

「また怒られるかもしれない」と予測する。

無表情を「不機嫌」と解釈する。

自分に対して不満を持っていると考える。

防衛的な態度を取る。

質問される前から、

「ちゃんとやりました」

「忙しかったんです」

と強く主張する。

先生は、まだ何も責めていないかもしれません。

しかし、生徒の中では、すでに攻撃される場面として処理されています。

すると、先生の普通の質問も、

「責められた」

「追及された」

「自分だけ厳しく見られた」

と感じることがあります。

ここで大切なのは、

本人が嘘をついているわけではない

ということです。

本人にとっては、実際に攻撃されたように感じられています。

だからこそ、

「そんなふうに感じるのはおかしい」

と感情を否定しても、問題は解決しません。

必要なのは、

何を見てそう感じたのか。

先生は具体的に何と言ったのか。

先生の意図を確認したのか。

別の解釈はあり得るか。

を一緒に整理することです。

ネガティブな出来事は、なぜ強く残るのか

もう一つ関係するのが、ネガティビティ・バイアスです。

Roy Baumeisterらは2001年、対人関係、感情、記憶、学習、健康など幅広い研究をレビューし、否定的な出来事や情報が、同程度の肯定的な出来事よりも強く影響しやすい傾向を「Bad is stronger than good」と整理しました。

否定的な情報は注意を引きやすく、深く処理され、記憶へ残りやすいことがあります。

例えば、先生から10回褒められた。

そして1回、強く注意された。

その日の夜に思い出すのは、注意された1回かもしれません。

学習計画表へ毎日コメントをもらっていた。

しかし、ある日コメントが短かった。

その短いコメントだけが気になる。

普段は丁寧に質問へ答えてもらっていた。

しかし、忙しい日に一度だけ、

「今は無理です」

と言われた。

その一度が長く残る。

これは、生徒が意図的に恩を忘れているという話ではありません。

否定的な出来事が、注意や記憶に強く残りやすい可能性があります。

ただし、ネガティビティ・バイアスがあるからといって、

「嫌な出来事は全部、本人の認知の問題だ」

とは言えません。

強い叱責。

侮辱的な言葉。

継続的な無視。

特定の生徒だけへの不公平な評価。

こうした出来事は、実際の問題として検証し、必要なら改善しなければなりません。

重要なのは、

否定的な出来事は強く残りやすい

という認知の傾向と、

実際に不適切な対応があったか

という事実確認を、両方行うことです。

「自分だけ注意される」は、どう検証すればよいのか

生徒が、

「私だけ注意されます」

と言ったとします。

ここで、

「そんなことはない」

とすぐ否定するのも、

「それはひどい先生だ」

とすぐ同意するのも適切ではありません。

まず、具体化します。

いつの出来事か。

どの授業か。

先生は何と言ったのか。

その時、自分は何をしていたのか。

他の生徒は何をしていたのか。

同じ行動をした他の生徒は注意されたのか。

一度だけか。

何度も繰り返されているか。

注意の内容は、行動への指摘だったか。

人格への攻撃だったか。

ここを分けます。

例えば、

「いつも私だけ注意される」

という言葉を記録で確認すると、実際には他の生徒も注意されていたことがあります。

一方、記録や複数の証言を確認すると、確かに特定の生徒だけが厳しく扱われていたと分かることもあります。

大切なのは、最初から結論を決めないことです。

生徒が間違っていると決めつけない。

先生が悪いと決めつけない。

具体的な出来事を確認します。

感情・解釈・事実を3つに分ける

このようなトラブルでは、次の3つに分けると整理しやすくなります。

感情

「悲しかった」

「怖かった」

「恥ずかしかった」

「腹が立った」

「嫌われているように感じた」

感情に正解・不正解はありません。

本人がそう感じたことを否定する必要はありません。

解釈

「先生は自分を嫌っている」

「自分を馬鹿にした」

「わざと無視した」

「自分だけ落とそうとしている」

これは、出来事の意味についての本人の推測です。

正しい可能性もありますが、確認が必要です。

事実

「7月10日の授業後に質問した」

「先生は『今は時間がない。次の休み時間に来て』と言った」

「次の休み時間には別の生徒と話していた」

「自分は再び質問へ行かなかった」

この部分は、可能な限り具体的に確認できます。

この3つを混ぜてしまうと、

「嫌われていると感じた」

ことが、

「先生が自分を差別している」

という確定事実へ変わってしまいます。

反対に、

差別の証拠がまだ確認できない

という理由で、

「あなたが傷ついたことも間違いだ」

と扱うのも不適切です。

感情は受け止める。

解釈は検討する。

事実は確認する。

この順番が必要です。

保護者がすぐに結論を出す危険

子どもが家へ帰り、

「先生は私を嫌っている」

と言った時、保護者が心配するのは当然です。

自分の子どもが不当な扱いを受けているなら、守りたいと思います。

しかし、ここで本人の説明を一切確認せず、

「その先生はひどい」

「もう塾へ行かなくていい」

「お母さんが電話する」

と進めると、本人が出来事を整理する機会を失うことがあります。

反対に、

「あなたにも原因があるんでしょう」

「先生がそんなことをするわけがない」

と切り捨てれば、本当に問題が起きていた場合に、子どもは相談できなくなります。

まず、

「そう感じて、つらかったんだね」

と感情を受け止める。

その上で、

「具体的に何があったのか、一緒に整理しよう」

と事実確認へ進みます。

必要に応じて、学校や塾へ確認します。

ただし、できる範囲で本人にも説明させます。

本人が自分の感情と出来事を言語化し、必要な支援を求める経験も重要だからです。

教育者側にも認知バイアスはある

ここまで読むと、

「生徒の受け取り方に問題がある」

という記事に見えるかもしれません。

しかし、認知バイアスを持っているのは生徒だけではありません。

教師にも、保護者にもあります。

教師が一度、

「この生徒は反抗的だ」

と思う。

すると、普通の質問も言い訳に見える。

疲れて無表情なだけでも、ふてくされているように見える。

学習計画表の記載漏れがあると、

「またやっていない」

と考える。

一方、その生徒が丁寧に取り組んだ日は見落とす。

これも確証バイアスです。

特定の生徒に対して否定的な印象を持つと、その印象に合う情報ばかりが目に入りやすくなる可能性があります。

だから教育者も、

自分は公平に見ている

と過信してはいけません。

同じ行動に同じ基準で対応しているか。

特定の生徒にだけ口調が厳しくなっていないか。

過去の印象で現在の行動を判断していないか。

褒めるべき変化を見落としていないか。

自分自身を振り返る必要があります。

STUDY HOUSEで大切にしたい確認の手順

STUDY HOUSEでは、生徒が、

「先生に嫌われている」

「自分だけ厳しくされている」

と訴えた場合、次のように整理する必要があると考えています。

まず、感情を受け止める。

「そう感じて、つらかったんだね」

「怖かったんだね」

と確認します。

次に、出来事を具体化する。

いつ。

どこで。

誰が。

何を言ったか。

何が起きたか。

その前後に何があったか。

次に、解釈を確認する。

なぜ嫌われていると思ったのか。

どの表情や言葉を根拠にしたのか。

他の解釈はあり得るか。

次に、反対の情報も確認する。

支援された場面はなかったか。

他の生徒にも同じ対応がなかったか。

先生側の事情は考えられるか。

そして、必要なら相手側にも確認する。

ただし、本当に不適切な対応が疑われる場合には、本人だけで解決させようとせず、大人が介入します。

最後に、次の行動を決める。

本人が先生へ質問する。

面談を設定する。

第三者を交えて話す。

関わり方を変える。

継続的に記録する。

必要に応じて距離を取る。

ここまで行って、初めて問題解決へ進みます。

「あなたの思い込みです」と終わらせてはいけない

心理学の用語を知ると、

「それは確証バイアスだ」

「拒絶感受性が高いだけだ」

「敵意帰属バイアスだ」

と説明したくなることがあります。

しかし、この使い方は危険です。

心理学の概念は、本人の訴えを無効にするための道具ではありません。

実際に差別的な対応やハラスメントが行われている可能性は、必ず残ります。

特に、

特定の生徒だけが繰り返し侮辱される。

人格を否定される。

必要な指導を意図的に受けられない。

成績評価で不公平な扱いを受ける。

相談しても継続的に無視される。

このような場合は、認知バイアスの話で片づけるべきではありません。

記録を残し、第三者を交え、組織として確認する必要があります。

一方で、本人の感じ方を無条件に外部の事実と一致させることもできません。

感情を尊重することと、事実を検証することは両立します。

学習においても「嫌われている」という認識は影響する

先生に嫌われていると感じると、学習行動にも影響が出ます。

質問しなくなる。

授業を聞かなくなる。

課題へ取り組まなくなる。

学習計画表を書かなくなる。

アドバイスを攻撃として受け取る。

確認テストを避ける。

先生から何を言われても、

「どうせ自分を否定したいだけだ」

と考える。

すると、本来は学習改善のためのフィードバックが、本人へ届かなくなります。

ここで重要なのは、

先生を好きになること

ではありません。

先生のすべての言葉に従うことでもありません。

誰から言われたかと、言われた内容が妥当かを分ける力です。

先生との関係に不満があったとしても、

「この単元の復習が必要」

という指摘が事実なら、学習上は対応する必要があります。

逆に、先生への信頼があっても、指導内容が常に正しいとは限りません。

人間関係と、学習上の事実を分けることも大切です。

最後に

「先生は自分を嫌っている」

そう感じた生徒に、

「気のせいだ」

と返してはいけません。

その生徒が傷ついたこと、不安になったこと、拒絶されたように感じたことは、本人にとって現実です。

まずは、その感情を受け止める必要があります。

しかし、

「嫌われていると感じた」

ことと、

「実際に差別的な対応を受けた」

ことは分けて考えなければなりません。

人間には、もともとの信念に合う情報を集めやすい確証バイアスがあります。

拒絶を不安に予期し、曖昧な行動も拒絶として受け取りやすい拒絶感受性があります。

相手の意図が不明な時に、悪意があったと考えやすい敵意帰属バイアスがあります。

否定的な出来事が強く記憶へ残りやすいネガティビティ・バイアスもあります。

だからこそ、

感情は否定しない。

解釈は決めつけない。

出来事は具体的に確認する。

反対の情報も集める。

必要なら相手側の説明も聞く。

不適切な対応があれば、きちんと改善を求める。

認知の偏りがあれば、別の見方を一緒に考える。

この両方が必要です。

教育とは、生徒の感情を押さえ込むことではありません。

自分の感情を理解しながら、感情と事実を分け、より正確に状況を判断できるようにすることです。

自分が何を感じたのか。

何が実際に起きたのか。

自分は何を根拠に、相手の意図を判断したのか。

別の可能性はないのか。

それでも不適切な対応があったと言えるのか。

ここまで考え、必要な助けを求められる力を育てる。

それが、自分を守りながら、他者とも関係を築いていくために必要な学びだと考えています。

主要参考文献

Downey, G., & Feldman, S. I.(1996). Implications of rejection sensitivity for intimate relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 70(6), 1327–1343.

Nickerson, R. S.(1998). Confirmation bias: A ubiquitous phenomenon in many guises. Review of General Psychology, 2(2), 175–220.

Crick, N. R., & Dodge, K. A.(1994). A review and reformulation of social information-processing mechanisms in children’s social adjustment. Psychological Bulletin, 115(1), 74–101.

Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Finkenauer, C., & Vohs, K. D.(2001). Bad is stronger than good. Review of General Psychology, 5(4), 323–370.

Dodge, K. A.(1980). Social cognition and children’s aggressive behavior. Child Development, 51(1), 162–170.

Lemerise, E. A., & Arsenio, W. F.(2000). An integrated model of emotion processes and cognition in social information processing. Child Development, 71(1), 107–118.

STUDY HOUSEでは、感情を否定せず、事実と次の行動を整理します

STUDY HOUSEでは、生徒が抱いた感情を、

「甘え」

「考えすぎ」

「気のせい」

と切り捨てることはしません。

つらかったこと。

悔しかったこと。

怖かったこと。

嫌われているように感じたこと。

まずは、生徒自身の言葉で伝えてもらいます。

その上で、

何が実際に起きたのか。

どの言葉や行動を、どのように受け取ったのか。

事実と解釈を分けられるか。

別の見方はないか。

本当に改善を求めるべき対応はなかったか。

次にどのような行動を取るか。

ここまで一緒に整理します。

これは、学習計画表の振り返りや面談でも同じです。

「怒られたから、もうやりたくない」

で終わらず、

何を指摘されたのか。

指摘された内容に事実はあるのか。

自分が変えられることは何か。

誤解があるなら、どう伝えるか。

必要な助けを、誰に求めるか。

そこまで考えられる生徒を育てたいと思っています。

「注意されると、すべて否定されたように感じてしまう」

「先生との関係が原因で、勉強へ向かえなくなっている」

「子どもの訴えを、どこまで受け止め、どう確認すればよいか分からない」

「感情的にならず、自分の状態を言葉にできるようになってほしい」

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