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すごう
すごう
人間は弱いです。
ここにいる人はみんな弱いです。
僕も日々、弱い自分に向き合ってるんですけど、勝てないです。
そこは終わることないですよね。ー本田圭佑ー

夏休み、小学生とのサマースクールへ。
サマースクールは多くの方々の協力で成り立っています。

まずは保険。
保険会社の加藤社長には特別の配慮をしてもらい、保険を組んでもらいました。

毎日、安心してサマースクールで郊外に行けるのは加藤社長の組んでくれた保険のお陰でもあります。
ありがとうございます。

さて

入試まであと180日。それでも今日やらない

期限よりも「今の気分」を優先する心理

「入試まで、あと180日です」

そう伝えると、多くの受験生は一度は不安そうな表情を見せます。

「もう半年しかない」

「このままでは間に合わない」

「そろそろ本気でやらなければ」

頭では、そのように理解しています。

ところが、家へ帰るとスマートフォンを見る。

少し休むつもりで動画を開く。

夕食後に始めようと思っていたのに、気づけば夜になっている。

「今日は学校で疲れたから」

「今から始めても中途半端になるから」

「明日は早く帰れるから、明日まとめてやろう」

そう考え、今日も勉強を始めません。

入試の重要性が分かっていないわけではありません。

志望校へ行きたいという気持ちが、まったくないわけでもありません。

それでも、遠い将来に得られる合格より、今すぐ得られる休息や楽しさを優先してしまうことがあります。

これは、単純な怠けだけでは説明できません。

人間には、将来の利益や損失を、時間が離れるほど小さく感じる傾向があります。

さらに、勉強に不安や苦痛を感じている時には、課題を避けることで、今の気分を一時的に改善できます。

つまり、生徒は、

入試を軽視している

というより、

遠い将来の利益より、今この瞬間の不快感を下げることを優先している

可能性があります。

この章では、

時間割引。

現在バイアス。

双曲割引。

不安と回避。

ヤーキーズ=ドットソンの法則。

という観点から、なぜ入試まで180日しかなくても、生徒が今日の勉強を始められないのかを考えます。

そして、科学的知見を、

今日、何を、どこまでやるのか

という具体的な学習設計へ変換します。

180日後の合格より、今の15分の休憩が強く感じられる

人間は、将来得られる利益を、現在得られる利益より低く評価する傾向があります。

これを時間割引と呼びます。

例えば、次の二つから選ぶ場面を考えます。

今日、1,000円をもらう。

1年後に、1,100円をもらう。

将来の1,100円の方が金額は大きくても、今すぐ受け取れる1,000円を選ぶ人がいます。

受験勉強でも同じ構造があります。

今、スマートフォンを見ることで得られる楽しさ。

今、勉強をやめることで得られる安心。

今、ベッドで休むことで得られる快適さ。

これらは、すぐに受け取れる利益です。

一方、

志望校への合格。

模試の成績向上。

英単語力の定着。

数学の応用力。

といった利益は、数週間後、数か月後、あるいは入試当日にならなければ明確に感じられません。

しかも、今日30分勉強しただけで、明日すぐ偏差値が上がるとは限りません。

結果が見えるまで時間がかかります。

そのため、生徒の中では、

今の30分の苦痛

が、

180日後の合格可能性の上昇

より大きく感じられることがあります。

時間割引の研究では何が調べられてきたのか

時間割引の研究では、主に、

小さいが早く受け取れる報酬

と、

大きいが遅れて受け取る報酬

のどちらを選ぶかが調べられてきました。

研究では、金銭、食物、健康上の利益など、さまざまな報酬が用いられています。

例えば、

今日受け取る一定額と、1週間後に受け取るより大きな金額のどちらを選ぶか。

遅れて受け取る金額がいくらなら、待つ方を選ぶか。

遅延期間が長くなると、選択がどのように変わるか。

といった方法です。

こうした研究から、将来の価値が時間とともに低く評価されることが示されてきました。

ただし、金銭の選択と受験勉強は同じではありません。

勉強には、努力、不安、自信、家庭環境、健康状態、学習方法など多くの要因が関係します。

したがって、金銭選択の実験結果だけで、特定の生徒が勉強しない理由を説明しきることはできません。

それでも、

将来の利益より、現在の快適さが強く感じられやすい

という基本構造は、先延ばしを考える上で重要です。

現在バイアスとは何か

現在バイアスとは、将来の利益よりも、今すぐ得られる利益を特に強く優先する傾向です。

例えば、日曜日の夜には、

「月曜日から毎日2時間勉強しよう」

と決められます。

その時点では、月曜日の勉強も、入試当日の合格も、どちらも未来の出来事です。

比較的冷静に計画できます。

しかし、月曜日の夕方になると状況が変わります。

今すぐ休める。

今すぐ動画を見られる。

今すぐ友達と連絡できる。

これらの選択肢が目の前に現れます。

すると、昨日立てた計画より、現在の快適さが急に魅力的に感じられます。

「今日は疲れているから、火曜日からにしよう」

と計画を書き換える。

そして火曜日になると、また同じ判断をします。

本人は毎日、

明日はやる

と思っています。

しかし、明日が今日になった瞬間に、現在の誘惑が強くなるため、行動が始まりません。

双曲割引は、なぜ計画が直前で崩れるのかを説明する

将来価値の低下を説明するモデルの一つが、双曲割引です。

George Ainslieは1975年、衝動性と自己統制に関する複数領域の研究を整理し、報酬の主観的価値が、時間の経過に伴って双曲線的に低下する考え方を論じました。

双曲割引の特徴は、選好の逆転を説明できることです。

例えば、かなり先の時点では、

小さく早い報酬

より、

大きく遅い報酬

を選べます。

今週末に遊ぶことより、半年後の合格を優先したいと考える。

ところが、遊びの機会が目前へ迫ると、小さく早い報酬の価値が急に高く感じられ、選択が逆転します。

日曜日には、

「月曜日から勉強する」

と思っていた。

しかし月曜日になると、

「今日は休みたい」

が勝つ。

これが、選好の逆転です。

Ainslieの論文は、単一の学習実験ではなく、経済学、行動心理学、精神医学などに関する研究を統合した理論的レビューです。

そのため、双曲割引がすべての衝動的な選択を説明できるわけではありません。

それでも、

将来について計画している時の自分

と、

誘惑が目の前にある時の自分

の判断が一致しないことを理解する重要な枠組みとなりました。

Laibsonは「未来の自分を拘束する仕組み」を分析した

David Laibsonは1997年、双曲割引を経済学的な意思決定モデルへ取り入れました。

Laibsonが扱ったのは、受験生ではなく、消費や貯蓄に関する経済行動です。

論文では、現在の消費を強く優先する人が、将来の自分による使いすぎを防ぐために、すぐには換金できない資産などのコミットメント手段を利用する理論モデルが分析されました。

ここから分かるのは、人間は必ずしも、

自由な選択肢が多いほど、自分の望む行動を取れる

わけではないということです。

その場の気分で自由に選べる環境では、将来の自分にとって不利益となる選択を繰り返す場合があります。

そこで、

先に行動を予約する。

誘惑へ接触しにくくする。

将来の自分が計画を変更しにくい仕組みをつくる。

ことが必要になります。

Laibsonの研究は理論的な経済モデルであり、中高生の学習を直接調べたものではありません。

また、金銭的な消費と、認知的な努力を必要とする勉強には違いがあります。

しかし、

意志の強さだけに頼らず、未来の行動を支える仕組みを先につくる

という発想は、学習管理にも応用できます。

「180日ある」が先延ばしを生むこともある

入試まで180日と聞くと、時間が少ないように感じます。

しかし、生徒によっては、

まだ180日もある

と感じます。

180日は、一日単位の行動としては遠すぎます。

今日勉強しなくても、明日から取り返せる。

今週できなくても、夏休みに頑張ればよい。

夏休みにできなくても、秋から本気を出せばよい。

秋に遅れても、冬休みに追い込めばよい。

こうして、遠い締切が先延ばしを許す理由になります。

入試までの日数を伝えるだけでは、行動は具体化されません。

むしろ、

180日で何とかしなければならない

という大きな課題だけが提示されると、生徒は何から始めればよいか分からなくなります。

大きすぎる課題は、行動の指示ではなく、不安の材料になります。

先延ばしは時間管理ではなく、気分管理の問題でもある

先延ばしは、計画を立てられないから起こるとは限りません。

何をやるべきか分かっている。

いつまでにやるべきかも知っている。

必要な教材も持っている。

それでも始められない。

このような場合、課題に伴う不快な感情が関係している可能性があります。

Fuschia SiroisとTimothy Pychylは2013年、先延ばしに関する研究を整理し、先延ばしを短期的な気分修復の問題として捉えました。

難しい課題。

失敗するかもしれない課題。

自分の能力不足を確認させられる課題。

長時間かかりそうな課題。

どこから始めればよいか分からない課題。

こうした課題を前にすると、不安、退屈、恥、苛立ち、無力感などが生じます。

課題から離れれば、その不快感は一時的に弱まります。

スマートフォンを見る。

部屋を片づける。

簡単な科目だけを進める。

参考書を選び直す。

睡眠を取る。

これらの行動によって、

勉強しなければならない

という嫌な気分から一時的に逃げられます。

つまり、先延ばしは、

時間を無駄にする行動

であると同時に、

現在の気分を少しよくする行動

でもあります。

ただし、先延ばしによる気分改善は短期的です。

未実施の課題は残ります。

入試日は近づきます。

罪悪感や不安が強まります。

課題がさらに嫌なものになります。

その結果、また回避しやすくなる。

この循環が生じます。(Compass)

不安があるから勉強するとは限らない

大人は、

「危機感が足りないから勉強しない」

と考えることがあります。

そこで、

「このままでは落ちる」

「あと180日しかない」

「今の成績では、どこにも合格できない」

「周りはもっと勉強している」

と強く伝える。

確かに、ある程度の緊張感は、行動を始めるきっかけになることがあります。

しかし、不安を強くすれば強くするほど、勉強量が増えるとは限りません。

不安が適度であれば、

勉強を始める。

集中する。

準備をする。

見直しをする。

といった行動を促すことがあります。

一方、不安が強すぎれば、

結果を見たくない。

問題を解いて、自分のできなさを知りたくない。

模試を受けたくない。

進路の話を避けたい。

勉強以外のことを考えたい。

といった回避につながる場合があります。

「危機感を持たせる」という働き掛けが、行動を促すこともあれば、行動を止めることもあるのです。

ヤーキーズとドットソンは何を実験したのか

Robert YerkesとJohn Dodsonは1908年、刺激の強さと学習速度との関係を調べました。

研究対象は人間の受験生ではなく、ネズミでした。

ネズミに明るさの異なる二つの箱を区別させ、誤った選択をした場合に電気刺激を与える弁別学習を行いました。

刺激の強さを変えながら、課題を学習するまでの試行数などが比較されました。

実験では、比較的簡単な弁別課題では強い刺激が学習を速める場合がある一方、難しい弁別課題では中程度の刺激で学習が進み、強すぎる刺激では成績が低下する傾向が示されました。

後にこの結果は、

覚醒や緊張が低すぎても高すぎても成績が下がり、中程度で最もよくなる

という逆U字型のヤーキーズ=ドットソンの法則として広く紹介されるようになりました。(Zenodo)

ヤーキーズ=ドットソンの法則を単純化してはいけない

この法則は教育の場で頻繁に引用されます。

しかし、原研究を超えて、

どのような人でも。

どのような課題でも。

緊張が中程度なら最高の成績になる。

と一般化することには注意が必要です。

原研究は、少数のネズミを用いた弁別学習です。

現代の中高生が、数学、英語、面接、小論文に取り組む状況とは異なります。

また、刺激、覚醒、不安、ストレス、動機づけは同じ概念ではありません。

課題の難易度、本人の習熟度、性格、睡眠、環境などによっても、緊張の影響は変わります。

したがって、

少し脅せば最適な緊張になる

という指導の根拠にはできません。

教育への実践的な示唆は、もっと慎重です。

課題が単純で、十分に習熟している場合には、ある程度の緊張が集中を促すことがあります。

一方、難しい課題、初めて学ぶ課題、自信を失っている生徒に強い不安を与えると、思考や行動を妨げる可能性があります。

必要なのは、不安を最大化することではありません。

行動を始められる程度まで課題を具体化し、取り組める感覚をつくることです。

大きな不安は、課題を曖昧にする

「入試まであと180日」

という情報だけを伝えられた生徒は、次に何をすればよいのでしょうか。

英語を伸ばす。

数学を復習する。

理科と社会を覚える。

国語の読解力を高める。

過去問を解けるようにする。

これでは範囲が大きすぎます。

生徒の頭の中には、

やることが多すぎる。

間に合わない。

どこから始めても足りない。

今さら始めても意味がない。

という感覚が生まれます。

すると、始める前から失敗したような気持ちになります。

そして、目の前の不快感を下げるため、課題を避けます。

「180日」という期限が、行動の目標ではなく、恐怖の象徴になっているのです。

大きな期限を見せるだけでは、行動は始まりません。

期限を、

今日の開始時刻。

今日の教材。

今日の範囲。

今日の終了条件。

次の確認日。

まで分解する必要があります。

「今日は2時間勉強する」でも具体性が足りない

大きな期限を分解するといっても、

今日は頑張る。

今日は2時間勉強する。

英語を進める。

数学を復習する。

という計画では十分ではありません。

「2時間勉強する」は、時間の目標です。

何をもって学習完了とするのかが分かりません。

例えば、英単語なら、

ターゲット1400の301番から400番まで。

日本語を見て英語を言う。

1語5秒以内。

間違えた語へ付箋を付ける。

間違えた語だけ、その日の最後に再テストする。

という形まで具体化します。

数学なら、

一次関数の基本問題10題。

最初は何も見ずに解く。

間違えた問題は、MISTAKEを分類する。

解説を閉じてもう一度解く。

翌日にREPLAYする。

ここまで決めれば、行動の開始点と終了点が見えます。

「やる気が出たら始める」では、現在バイアスに勝てない

多くの生徒は、

やる気が出れば勉強できる

と考えています。

しかし、勉強を始める前には、勉強に対する不快感が最も強く感じられることがあります。

何時間かかるか分からない。

できない問題が出るかもしれない。

失敗を確認することになるかもしれない。

この不快感がある状態で、

勉強するか、しないか

をその場で自由に選べば、現在バイアスによって楽な方を選びやすくなります。

そこで、開始時の判断を減らします。

午後7時になったら、机へ座る。

夕食が終わったら、英単語カードを開く。

塾へ到着したら、確認テストを受ける。

風呂から出たら、ブラックノートを5分見る。

行動のきっかけを先に決めます。

その場で、

今日は勉強するべきか

を考えないようにするのです。

最初の行動は、驚くほど小さくてよい

入試まで180日と考えると、すべてを一度に変えたくなります。

毎日5時間勉強する。

スマートフォンを完全にやめる。

全科目を毎日進める。

一週間で生活を立て直す。

しかし、大きな改革は開始時の負担も大きくします。

必要なのは、最初から最大量をこなすことではありません。

最初の行動を発生させることです。

教材を机へ出す。

学習計画表を見る。

英単語を10語だけ確認する。

数学を1題だけ解く。

昨日のMISTAKEを一つだけ説明する。

始めてから継続するかどうかは、その後に判断します。

「1題だけでは意味がない」

と思うかもしれません。

しかし、ゼロ題と1題の差は、1題と10題の差より重要な場合があります。

ゼロのままでは学習は発生しません。

1題始めれば、課題に対する不確実性が下がり、そのまま続けられる可能性が生まれます。

STUDY HOUSEでの実装① 180日を一日へ変換する

STUDY HOUSEでは、

入試まであと180日

という情報だけで終わらせません。

まず、目標から逆算します。

志望校の目標得点。

現在の得点。

得点差。

未習得の単元。

教材ごとの残量。

必要な反復回数。

模試や定期テストの日程。

学校行事や部活動。

これらを整理します。

その上で、

180日。

90日。

30日。

1週間。

今日。

へ分解します。

例えば、英単語1,800語を3回転するなら、合計5,400語分の接触が必要です。

180日で均等に行えば、一日30語です。

しかし、復習日、模試、体調不良などを考えれば、実行日数は180日より少なくなります。

そこで、週単位で新出語と復習語を分けます。

大きな目標を、今日実行できる量へ変換します。

STUDY HOUSEでの実装② 学習計画表へ終了条件を書く

計画表には、

英語を頑張る。

数学を2時間。

理科を復習。

とは書きません。

何を。

どこからどこまで。

どの方法で。

どの状態まで。

いつ確認するか。

を書きます。

例えば、

英単語301~400番を、日本語から英語で回答する。

1語5秒。

間違えた語を暗記ツールへ移す。

当日夜と翌日に再テストする。

数学ワーク42~45ページ。

例題を見ずに解く。

誤答はブラックノートへ記録する。

翌日、3日後、1週間後にREPLAYする。

このように、学習の終了条件まで決めます。

「時間を使った」ではなく、

どの状態をつくったか

を管理します。

STUDY HOUSEでの実装③ 予測と実績の差を見る

計画が実行できなかった時に、

意思が弱い。

やる気がない。

危機感がない。

と人格へ原因を置きません。

計画と実績の差を確認します。

予測では30分だったが、実際は60分かかった。

教材を開くまでに20分かかった。

分からない問題で止まり続けた。

スマートフォンが机にあった。

開始時刻が決まっていなかった。

課題が大きすぎた。

疲労や睡眠不足があった。

原因が違えば、修正方法も違います。

計画量を減らす。

教材を分ける。

質問する問題に印を付ける。

スマートフォンを別室へ置く。

開始の合図を決める。

睡眠時間を整える。

できなかった自分を責めるのではなく、実行を妨げた構造を修正します。

STUDY HOUSEでの実装④ 「不安の正体」を学習単位へ分ける

「入試が不安です」

と言われた時に、

「もっと勉強すれば大丈夫」

とは返しません。

何が不安なのかを分けます。

英単語を覚えていない。

数学の関数が苦手。

理科の計算問題が解けない。

模試の時間が足りない。

志望校の合格点まで80点不足している。

過去問をまだ解いていない。

不安を具体的な学習課題へ変えます。

そして、

今日、変えられる部分はどこか

を決めます。

合格できるかどうかを今日確定することはできません。

しかし、英単語を100語確認することはできます。

一次関数を5題解くこともできます。

昨日の誤答を再テストすることもできます。

不安全体を消そうとするのではなく、不安の一部を今日の行動へ変えます。

STUDY HOUSEでの実装⑤ 小さな締切をつくる

180日後の入試だけを締切にすると、日々の判断が曖昧になります。

そこで、

毎日の締切。

週ごとの締切。

単元ごとの締切。

確認テストの日。

再テストの日。

模試前の到達期限。

を設定します。

例えば、

水曜日までに英文法第3章を完了する。

木曜日に何も見ずに確認テストを行う。

間違えた問題を土曜日に再テストする。

翌週に初見問題でREPLAYする。

という形です。

期限を短く区切ることで、遠い将来の利益を、近い行動へ接続します。

ただし、締切を増やすだけでは、監視感や不安が強くなることがあります。

締切には、

何のために行うのか。

どの支援が受けられるのか。

達成できなかった時にどう修正するのか。

も必要です。

STUDY HOUSEでの実装⑥ コミットメントを仕組みにする

未来の自分が計画を変更することを前提に、先に仕組みをつくります。

塾へ来る曜日を固定する。

確認テストの日時を予約する。

家族LINEで予定を共有する。

教材を机へ置いて帰る。

スマートフォンの保管場所を決める。

学習開始時刻に友達と一緒に始める。

面談で次回までの課題を宣言する。

これは、生徒を縛るためだけの管理ではありません。

現在バイアスの影響を受ける未来の自分を、事前に支える方法です。

その場の気分に任せず、行動が始まりやすい環境を先につくります。

STUDY HOUSEでの実装⑦ 不安を煽るのではなく、できる感覚をつくる

危機感が必要な場面はあります。

現在の点数と目標点に大きな差があるなら、その事実を曖昧にはできません。

しかし、

このままでは落ちる。

もう間に合わない。

みんなより遅れている。

と繰り返すだけでは、具体的な行動は生まれません。

STUDY HOUSEでは、

現在の得点。

目標得点。

残り日数。

必要な学習量。

今日の課題。

を示します。

例えば、

志望校まで80点足りない

だけで終わらせない。

その80点を、

英語15点。

数学20点。

国語10点。

理科20点。

社会15点。

へ分けます。

さらに英語15点を、

単語5点。

文法4点。

長文の時間配分6点。

へ分けます。

そして今日、

単語100語。

文法10問。

長文1題。

へ変えます。

大きな不安を、手を動かせる大きさへ変えるのです。

STUDY HOUSEでの実装⑧ 結果ではなく、開始を記録する

先延ばしが強い生徒には、最初から完璧な達成を求めない場合があります。

何時に始めたか。

最初に何を開いたか。

何分で集中へ入れたか。

どこで止まったか。

中断後に戻れたか。

を記録します。

目標は、

やる気のある人になる

ことではありません。

やる気が十分でない日にも、決めた行動を開始できる仕組みを持つことです。

開始できた回数が増えれば、学習量も少しずつ安定します。

研究から言えること

ここまでの研究から、次のことが示唆されます。

人は、将来得られる利益を、時間が離れるほど小さく評価する傾向があります。

将来について計画している時と、誘惑が目の前にある時では、選択が変わることがあります。

そのため、長期目標だけでは、日々の行動を安定させられない場合があります。

先延ばしには、課題から離れることで、現在の不快な気分を一時的に改善する働きがあります。

不安や緊張は、常に成績を高めるわけではありません。

課題の難しさや本人の状態によっては、強い不安が回避や成績低下へつながることがあります。

したがって、

危機感を持て。

入試まで時間がない。

将来困る。

という訴えだけで、先延ばしが改善するとは限りません。

必要なのは、遠い期限を、今すぐ実行できる行動へ接続することです。

研究からは断定できないこと

一方、時間割引だけで、すべての先延ばしを説明することはできません。

学習を始められない背景には、

睡眠不足。

抑うつ。

強い不安。

注意や実行機能の困難。

発達特性。

家庭環境。

教材の不適合。

学習方法が分からないこと。

過度な課題量。

過去の失敗経験。

などが関係している場合があります。

また、双曲割引の研究には、金銭や食物などの選択を扱ったものが多くあります。

それらの結果を、受験勉強へそのまま当てはめることには限界があります。

SiroisとPychylの論文は、先延ばしと感情調整に関する研究を統合した理論的レビューです。

すべての先延ばしが、不安回避だけで生じると証明した単一の実験ではありません。

ヤーキーズとドットソンの原研究も、ネズミの弁別学習を扱ったものです。

「人間は中程度の不安で必ず最高の成績を出す」という法則ではありません。

心理学の概念は、生徒へ、

現在バイアスがあるから仕方ない。

不安だから勉強できない。

という新しい言い訳を与えるためのものではありません。

どこで行動が止まり、どの仕組みを変えれば開始できるのかを考えるために使うものです。

最後に

入試まであと180日。

この数字は、重要です。

残された時間を正確に把握しなければ、必要な学習量を設計できません。

しかし、

あと180日しかない。

このままでは落ちる。

もっと危機感を持ちなさい。

と恐怖だけを与えても、今日の勉強は始まらないことがあります。

生徒は、入試を軽視しているとは限りません。

むしろ、入試への不安が強すぎるため、考えることを避けている可能性があります。

遠い将来の合格より、今の休息が魅力的に感じられている可能性もあります。

だから必要なのは、

もっと怖がらせること

ではありません。

180日を、今日へ変えることです。

今日は何時に始めるのか。

どの教材を開くのか。

何ページ進めるのか。

どの問題を解くのか。

どの状態になれば終了なのか。

いつ再テストするのか。

ここまで決めます。

「英語を頑張る」ではなく、

英単語を100語、1語5秒で確認する。

「数学を復習する」ではなく、

一次関数を10題、何も見ずに解く。

「理科を覚える」ではなく、

昨日の誤答5問を、解説なしで再テストする。

遠い期限は、方向を示します。

しかし、成績を変えるのは、今日の具体的な行動です。

大きな期限を恐怖として示すのではなく、今日の行動へ分解する。

そして、その行動を学習計画表へ書き、実行し、記録し、REPLAYする。

180日後の結果は、今日という一日の積み重ねによってつくられます。

主要参考文献

Ainslie, G.(1975). Specious reward: A behavioral theory of impulsiveness and impulse control. Psychological Bulletin, 82(4), 463–496.

Laibson, D.(1997). Golden eggs and hyperbolic discounting. The Quarterly Journal of Economics, 112(2), 443–478.

Frederick, S., Loewenstein, G., & O’Donoghue, T.(2002). Time discounting and time preference: A critical review. Journal of Economic Literature, 40(2), 351–401.

Sirois, F. M., & Pychyl, T. A.(2013). Procrastination and the priority of short-term mood regulation: Consequences for future self. Social and Personality Psychology Compass, 7(2), 115–127.

Pychyl, T. A., Lee, J. M., Thibodeau, R., & Blunt, A.(2000). Five days of emotion: An experience sampling study of undergraduate student procrastination. Journal of Social Behavior and Personality, 15(5), 239–254.

Yerkes, R. M., & Dodson, J. D.(1908). The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation. Journal of Comparative Neurology and Psychology, 18(5), 459–482.

Steel, P.(2007). The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65–94.

Gollwitzer, P. M.(1999). Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist, 54(7), 493–503.

STUDY HOUSEでは、180日後の不安を「今日の行動」へ変えます

STUDY HOUSEでは、

危機感を持ちなさい。

やる気を出しなさい。

もっと頑張りなさい。

という言葉だけで、受験勉強を進めることはしません。

志望校の目標点と現在地を確認し、その差を学習課題へ分解します。

そして、

180日後に何を達成するか。

今月、何を終えるか。

今週、何を進めるか。

今日、何を実行するか。

を学習計画表へ落とし込みます。

教科書作り。

ブラックノート。

暗記ツール。

確認テスト。

MISTAKE分析。

REPLAY。

これらの仕組みを使い、

勉強したつもり

ではなく、

何ができるようになったか

まで確認します。

また、計画どおりに進まなかった時も、

本人のやる気がない

と決めつけません。

課題が大きすぎなかったか。

開始時刻は決まっていたか。

教材と範囲は具体的だったか。

不安で問題を避けていなかったか。

睡眠や生活に問題がなかったか。

どこで行動が止まったのかを一緒に確認し、計画を修正します。

「入試が近づいているのに、勉強を始められない」

「本人も焦っているのに、スマートフォンをやめられない」

「毎日『明日からやる』を繰り返している」

「大きな計画を立てても、数日で崩れてしまう」

「何をどこまでやればよいのか、本人も家族も分からない」

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