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この世の中に天才はいないと思っている。
全てが後天的。ー本田圭佑ー

「3時間勉強した」は学力の証明にならない

時間をかけても成績が上がらない理由

「昨日は3時間勉強しました」

「テスト前は毎日、夜遅くまで勉強しています」

「問題集を3周しました」

生徒と話をしていると、こうした言葉をよく聞きます。

もちろん、勉強時間を確保することは大切です。

勉強しなければ、学力は上がりません。

しかし、ここには一つ、大きな落とし穴があります。

それは、

「長く勉強したこと」と「学習した内容が身についたこと」は、同じではない。

ということです。

3時間机に向かっていても、1週間後に何も思い出せなければ、その3時間は「学力」として十分に残っているとは言えません。

逆に、1時間の学習でも、数日後に何も見ずに説明でき、問題を自力で解き、さらに初めて見る問題に応用できるのであれば、その1時間は非常に密度の高い学習だったと言えます。

STUDY HOUSEが生徒たちに繰り返し伝えている、

「やった時間」ではなく、「自力でできる状態」になったか。

という考え方です。

これは単なるSTUDY HOUSE独自の指導哲学ではありません。

認知心理学、教育心理学、学習科学の研究を見ても、「勉強した感覚」と「実際に記憶として定着している状態」には、大きなズレが生じることが分かっています。

「分かった」という感覚は、意外と信用できない

例えば、こんな生徒がいます。

教科書を何度も読む。

重要な部分に蛍光ペンを引く。

授業動画を見る。

先生の解説を聞く。

分からない問題は解答解説を読む。

そして、

「分かりました」

と言います。

では、そこで教科書と解説を閉じてもらいます。

「今の内容を、自分の言葉で説明してみて」

すると、説明できない。

「じゃあ、さっきの問題をもう一度、何も見ないで解いてみよう」

すると、手が止まる。

これは決して珍しいことではありません。

学習科学では、このような現象を考える上で重要な概念として、学習の流暢性(fluency)や熟知性(familiarity)が挙げられます。

同じ文章を何度も読むと、文章そのものに「見覚え」が生まれます。

一度解説を読んだ問題を見ると、

「ああ、これ知っている」

という感覚が生まれます。

動画授業を見て先生の説明が理解できると、

「自分も理解した」

と感じます。

ところが、

見れば分かることと、何も見ずに自分で取り出せることは別です。

ここを混同すると、「理解の錯覚」が起こります。

つまり、

「勉強した気になっている」

「分かった気になっている」

「覚えた気になっている」

にもかかわらず、実際には自力で再現できない状態です。

受験勉強で怖いのは、この「分かったつもり」です。

なぜなら、入試本番では教科書も解説も先生も隣にいないからです。

「読む勉強」と「思い出す勉強」は違う

この問題を考える上で非常に重要なのが、検索練習(retrieval practice)です。

ここでいう「検索」とは、インターネットで調べるという意味ではありません。

自分の記憶の中から、学習した情報を取り出すことです。

例えば、

教科書を閉じて説明する。

単語帳の日本語を隠して英単語を答える。

公式を見ずに書く。

昨日解いた数学の問題を、解説なしでもう一度解く。

白紙に学習内容を再現する。

自分で自分に問題を出す。

こうした行為が検索練習です。

心理学者Henry L. Roediger IIIとJeffrey D. Karpickeは、2006年に発表した研究で、文章を繰り返し読む学習と、学習後に記憶から内容を取り出すテストを行う学習を比較しました。

興味深いのは、学習直後だけを見ると、繰り返し読んだ方がよく覚えているように見える場合があることです。

ところが、時間が経過した後の保持を見ると、検索練習を行ったグループの方が優れた成績を示しました。

つまり、

「今、分かるか」ではなく、

「時間が経っても、自分の力で取り出せるか」

が重要なのです。

これは受験勉強を考える上で極めて重要です。

今日の授業で分かった。

今日の問題は解けた。

今日の単語テストはできた。

それだけでは、本番で使える知識になったとは限りません。

1日後。

3日後。

1週間後。

2週間後。

1か月後。

その時にも取り出せるか。

そこまで確認して初めて、知識は「その場の理解」から「使える知識」へ変わっていきます。

「まとめること」より「取り出すこと」が有効な場合がある

2011年、KarpickeとBluntは、検索練習と概念マップを用いた学習などを比較する研究を発表しました。

概念マップは、学習内容の関係性を図式化し、整理する方法です。

もちろん、内容を構造化して理解することには意味があります。

しかし、この研究では、学習した内容を記憶から積極的に取り出す検索練習が、後のテストにおいて高い学習効果を示しました。

ここから私たちが考えなければならないのは、

「きれいなノートを作ったから勉強した」

「教科書をまとめたから理解した」

とは限らないということです。

STUDY HOUSEでも、教科書作りやブラックノート作り、暗記ツール作成を大切にしています。

しかし、作ること自体が目的ではありません。

作った後に使う。

隠す。

答える。

説明する。

間違える。

修正する。

もう一度取り出す。

ここまでやって、初めて学習ツールとして機能します。

だからSTUDY HOUSEでは、教材を「作って終わり」にしません。

周回させます。

なぜ「3時間勉強した」で安心してしまうのか

人間にとって、勉強時間は非常に分かりやすい指標です。

3時間やった。

5ページ進んだ。

問題集を1周した。

動画を4本見た。

これらは数字で確認できます。

達成感も得られます。

しかし、本当に測るべきものは、もっと厳しいものです。

昨日覚えたことを、今日も言えるか。

1週間前に間違えた問題を、今日は自力で解けるか。

なぜその公式を使うのか説明できるか。

問題文のどの条件を見て、その解法を選択したのか言語化できるか。

類題ではなく、初見問題でも使えるか。

こちらの方が、学力の実態に近い。

つまり、

「何時間勉強したか」は入力の量であり、

「何ができるようになったか」は学習の成果です。

この二つを分けて考えなければなりません。

学習法には「効果の差」がある

Dunloskyらは2013年、学生が利用する代表的な学習技法について、心理学研究の知見を広くレビューしました。

そこで高い有用性が評価された代表的な方法が、

練習テスト(practice testing)

分散学習(distributed practice)

です。

一方、再読(rereading)やハイライト・下線といった方法は、それだけに依存した場合、高い効果が期待できる学習法とは評価されませんでした。

ここで誤解してほしくないのは、

「教科書を読むな」

「蛍光ペンを使うな」

という話ではありません。

読むことは必要です。

授業を聞くことも必要です。

動画で理解することも有効です。

問題集の解説を読むことも必要です。

問題は、その後です。

インプットした後に、

何も見ずに取り出したか。

自分で説明したか。

問題を解いたか。

間違いを確認したか。

時間を空けて再テストしたか。

ここまで設計されているかどうかです。

STUDY HOUSEが「REPLAY」を重視する理由

STUDY HOUSEでは、学習の中でREPLAYを重視しています。

一度できた問題を、もう一度やる。

間違えた問題を、時間を空けて再テストする。

翌日。

3日後。

1週間後。

2週間後。

1か月後。

解説を見ずに、もう一度自分で考える。

ここで解けなければ、まだ定着していなかったということです。

それは失敗ではありません。

むしろ、

「自分は覚えていると思っていたけれど、実際には取り出せなかった」

という重要な情報が得られたことになります。

ここから再学習すればいい。

STUDY HOUSEで大切にしているブラックノートも同じです。

間違えた問題をきれいにまとめるためのノートではありません。

自分が、

どこで間違えたのか。

なぜ間違えたのか。

何を見落としたのか。

次は何を見ればよいのか。

どの知識を使えばよいのか。

それを残し、もう一度自力で再現するためのものです。

学習時間ではなく「取り出せる知識」を増やす

だから私は、生徒が、

「今日は3時間勉強しました」

と言った時、それだけでは評価を終えたくありません。

大切なのは、

「その3時間で、何ができるようになったのか」

です。

英単語を100語見た。

ではなく、

100語のうち、何語を何も見ずに答えられるようになったのか。

数学を20問解いた。

ではなく、

間違えた問題のうち、何問を翌日に自力で再現できたのか。

理科の教科書を10ページ読んだ。

ではなく、

教科書を閉じて、何を説明できるのか。

勉強時間は必要です。

しかし、

時間は学力ではありません。

学力とは、必要な時に必要な知識を取り出し、問題に応じて使える力です。

だからこそ、STUDY HOUSEでは、

「やったか」

ではなく、

「できるようになったか」

を確認します。

そして、

「できたか」

だけではなく、

「時間を空けても、もう一度できるか」

まで確認します。

「勉強した」を「残った」に変える

3時間勉強した。

それは素晴らしいことです。

しかし、本当の学習はそこからです。

その3時間で学んだことが、明日の自分に残っているか。

1週間後の自分に残っているか。

定期テストで取り出せるか。

模試で使えるか。

そして、数か月後の入試本番で再現できるか。

勉強の目的は、時間を消費することではありません。

未来の自分が使える知識と技能を、今日の自分が残していくことです。

「3時間勉強した」

から、

「3時間で、これだけのことが自力でできるようになった」

へ。

さらに、

「時間が経っても、何も見ずに再現できた」

へ。

STUDY HOUSEが目指しているのは、この学習です。

学習時間を積み上げるだけの「フロー型学習」ではなく、

知識、解法、間違い、思考のプロセスを一つずつ自分の中に残していく「ストック型学習」。

今日の3時間を、今日だけの3時間にしない。

未来の自分を助ける3時間にする。

それが、本当に学力を伸ばす勉強だと考えています。

主要参考文献

Roediger, H. L. III, & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.

Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331(6018), 772–775.

Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.

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